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Bizaramente Cantabile(前編)
 ある狩りの後の雑談。
「私ってさ、精神修練より祈祷修練が主だったじゃない? 最初っから退魔専門のプリーストになるつもりだったし、だから多人数の支援って向いてないのよね。……そりゃあ、精神修練が甘かったのは認めるけどさ、支援の技術どうこうより、精神力が続かないのよ。すぐに疲れちゃって。適度に休憩もらえないと、つらいなぁ」
 私の前では幼馴染みの拳聖が、傾きかけている日の光にウィンドオブヴェルデュールをかざして純度を確かめている。私の話を聞いているんだか聞いていないんだか分からない。
 私は構わず話し続けた。
「確かにあの修道院、不死とか悪魔ばっかりだからすごく良い経験にはなるんだけどね。連れて行ってもらえるのも嬉しいんだけど、でも今さら精神修練を積んだところで伸び幅なんて知れてるし、何か息切れしないためのいい方法ってないかなあ」
 彼は一つを確認し終えると、また新しい原石を手に取って夕日にかざした。私はさすがに少し腹が立って彼をじっと睨みつける。
 私の声をバードの歌かなんかとでも思っていたのだろう。私の声が止んだことに気付いた彼はようやく、視線を原石から私に移した。
「そうだなあ」
 話、聞いてなかったな……。
 私はそう思って、それでも彼を試すように返答を待つ。彼は白々しく考えるような振りをして、そしてこう言った。
「それでも、リシェさんってあんまり疲れてないように見えるけど?」
 私の脳裏に、酒場の壁際に座って天井を眺めている女性プリーストの姿がよぎった。夜の闇のように深い色の髪と、同じ色の瞳。人当たりが良くてよく誰かと話をしているけれど、ふと気付くと沈黙して天井を眺め、何かを考え込んでいる。私の知る限り、リシェさんという人はそんな人だった。独特の雰囲気と不思議なリズムを持つ、私と同じ退魔型のプリースト。
 そういえば狩りに出かけた時、あの人が疲れているところを見たことが無かった。それどころか、私が何をしようとしても、必ず彼女の方が先に動き始めている。
「何かコツでもあるんじゃね? 今度聞いてみたら?」
 私は彼の投げやりな返答に腹が立った。でももしかしたら、私はただ他の誰かと比べられて、自分の方が劣っていると言われている気がして腹を立てていたのかもしれない。
「さて、オレはそろそろ行くよ。飲みに誘われてんだ」
「え?」私は驚いて、立ち上がる彼の顔を見上げた。
「ん?」
「清算はどうするの?」
「どうせ大したもの出てないだろ? ウィンドオブヴェルデュールは半々に分けたし、後は各自で売りに行けばいいんじゃね?」
「……晩御飯、作ってくれないの?」
 私がそう言うと、彼は呆れたように長い息を吐いて肩を落とし、言った。
「腐った肉でも食ってろ。じゃあな。……速度くれるか?」
 私は恨めしげに彼を見ながら、速度増加の祈りを捧げた。ただし、思いっきり手を抜いて。
 彼はお礼代わりに手を挙げて去っていく。次の角を曲がるあたりで速度増加の奇跡は効果を失うだろう。私の知ったことじゃない。私は短くテレポートの祈りを囁いてその場を去った。
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Sunday Morning
約束してた創作です。




 カーテンの隙間から漏れる白い光に、黒馬氏は朝の訪れを知る。
 カウンターに突っ伏したままの姿勢で彼は薄く目を開いた。
 ゆっくりと身を起こして辺りを見回す。転がっているウイスキー・ボトルは一本や二本ではない。そこら中に散らかる食べ物の滓は、踏み荒らされた枯れ葉のようだ。頬杖をつきながらその光景を眺め、空虚な憂鬱感に険しくなる彼の眉間は、直後襲い来た重苦しい頭痛によってさらに深い皺を刻む。
 こんな朝を、何度迎えたのか分からない。
 胃の不快感は出口を知らない。痛飲の理由はいつも同じだった。こんなことがある度、二度と酒はやらんと思う。しかし、大きな空洞とその中を吹き荒ぶ風のイメージが憑物のように離れない夜、彼の手はまた酒に伸びる。何度も何度も繰り返した夜であり、何度も何度も繰り返した朝だった。

 昨夜、招かざる客が来た。
 その客が、何か無礼な振る舞いをしたわけではない。むしろ、その客の態度は、彼に最大限の敬意を払っていた。
 それなのに彼は、その客を<招かざる客>と認識した。何故か。理由は……分かっている。俺自身の問題だ。あの客に罪は無い。ただ、あの客は運悪く……その視線の先に、俺が最も目にしたくない俺自身の姿を映したのだ……。
 吐気と共に、昨夜の記憶が蘇る。
 その女は、彼がちょうど店を閉めようかと考えた時、酒場のドアを開けたのだった。
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